FPGA運用に立ちはだかる二つの壁
従来、データセンターでFPGAを大規模に利用しようとすると、主に二つの課題に直面していました。一つは「運用」の壁です。FPGAはクラウドの標準的な管理システムに組み込まれていないため、回路の配布、稼働状態の監視、入れ替えといった一連のプロセスを自前で構築・維持する必要がありました。もう一つは「性能」の壁です。FPGAが高速な処理能力を持っていても、ホストCPUを経由する構成ではCPUがボトルネックとなり、その真価を発揮しにくいという課題がありました。
「vFPGA Orchestrator」がもたらす変革
Chiptip Technologyが提供を開始した「vFPGA Orchestrator」は、これらの課題を解決します。同ソフトウェアはFPGAをKubernetes(クバネティス)の管理下に置くことで、クラウド上の一般的なソフトウェアと同じ手順とツールで運用することを可能にします。これにより、FPGA専用の管理基盤を内製する負担が軽減されるとしています。
また、ホストCPUを介さずにFPGAをネットワークへ直結させる「ネットワークFPGA」構成を採用することで、CPUによる性能ボトルネックを解消します。これにより、CPUホップ分のレイテンシがなくなり、FPGAが対応できるワークロードの範囲が大幅に拡大するといいます。ホスト側のサーバーを必要としないため、ノード単価の低減にも寄与する見込みです。
KubernetesとvFPGAの役割
Kubernetesは、データセンターにおいて「どの処理をどのサーバーに任せるか」を自動的に決定するソフトウェアであり、現代のクラウド環境では標準的に利用されています。これまではCPUとメモリを持つサーバーや、その上で動作するコンテナ(アプリケーションを実行環境ごとパッケージ化したもの)の管理に限定されていました。
Chiptip Technologyは、このKubernetesがFPGAを直接指示できる対象となるよう開発を進めました。その結果、Kubernetesから一つの計算資源として認識されるFPGAの単位を「vFPGA」と定義しています。運用側から見ると、コンテナを配置するのと同じ操作でvFPGAを確保し、回路を搭載・入れ替えできるようになり、FPGAがサーバーと同様に割り当て可能な計算資源となるとしています。
EmotionXが示す実用性
「vFPGA Orchestrator」の最初の採用事例は、EmotionX株式会社が構築する完全準同型暗号(FHE)による秘密計算クラウドです。EmotionXはキオクシアの研究開発成果を基に設立された企業で、預けたデータの中身が事業者にも見えない暗号計算インフラの実現を目指しています。FHEは平文での計算に比べ計算量が桁違いに多いため、FPGAによる高速化が実用化の前提条件となります。EmotionXは、この大規模なFPGA基盤上での商用化ニーズに「vFPGA Orchestrator」が応えたとしています。
秘密計算は、専用ハードウェアによる加速が特に求められる分野であり、この種の基盤にとって最も厳しい条件の一つです。そこで「vFPGA Orchestrator」が成立するという事実は、他の多様な用途への適用可能性を示唆しています。
広がる応用範囲
「vFPGA Orchestrator」が解決する課題は、秘密計算に特有のものではありません。専用ハードウェアで大量の計算を処理したいものの、ASIC(特定用途向け集積回路)を開発するための数年という時間と数十億から数百億円という巨額の資金がない、という共通の課題は、多くの分野に存在します。
Chiptip Technologyは、秘密計算を出発点として、耐量子暗号(PQC)、5G/6G通信、ネットワークセキュリティ機器、そしてASICプロトタイピングといった分野への展開を見込んでいます。特にASICプロトタイピングにおいては、同ソフトウェアが実サービスとして動作する検証環境を提供することで、市場のニーズを早期に把握し、多額の投資を伴うASIC開発のリスクを低減する効果が期待されます。
同社の技術は特許も取得しています(特許第7611613号「情報処理システム、情報処理装置、サーバ装置、プログラム、リコンフィギャラブルデバイス、又は方法」)。
半導体開発の新たな地平
ASIC開発のコストは微細化の進展とともに膨大になり、最先端プロセスでは1製品あたり約1000億円規模に達することもあります。また、設計から完成まで数年を要するため、その間に技術トレンドが変化するリスクも伴います。Chiptip Technologyは、書き換え可能なハードウェアであるFPGAとクラウドの運用技術を組み合わせることで、この半導体開発の構造を変革しようとしています。これにより、資金力ではなくアイデアの優位性が未来のコンピューティングを切り拓く世界を目指すとしています。
Chiptip Technologyは今後、「vFPGA Orchestrator」の実証を進め、データセンター規模でのFPGA運用を通じて、複数の用途でFPGAを使い回し、計算あたりのコスト削減を目指していく方針です。
企業情報
Chiptip Technology株式会社
所在地:東京都港区六本木7丁目3番2号 ラポール乃木坂305号
代表者:代表取締役CEO 福田エリック
事業内容:FPGAクラウドを構築・運用するためのプラットフォームソフトウェア「vFPGA Orchestrator」の開発・提供。
URL:https://chiptip.tech/
EmotionX株式会社
所在地:東京都港区芝浦3丁目1-21 田町ステーションタワーS
代表者:代表取締役CEO 吉水康人
事業内容:FHE高速処理技術を核に、準同型暗号計算のクラウド基盤と専用ハードウェアを開発。
URL:https://www.emotionx.co.jp/
お問い合わせ
Chiptip Technology株式会社は、FPGAクラウドの構築・運用を検討している事業者向けに「vFPGA Orchestrator」を提供しています。詳細な技術情報やお問い合わせは、以下のリンクから可能です。
ソース元
Chiptip、FPGAをKubernetesで運用するソフトウェア「vFPGA Orchestrator」を提供開始

