IDaaSとは何か
IDaaSは、ユーザーや従業員のデジタルIDをクラウドベースで一元的に管理し、誰がどのシステムやデータにアクセスできるかを制御するサービスを指します。代表的な機能には、Single Sign-On(SSO)、Multi-Factor Authentication(MFA)、ユーザーProvisioning、Password Management、Directory Services、Audit・Compliance・Governanceなどが含まれます。
日本企業において、IT環境がオンプレミス中心からSaaSやクラウドを組み合わせた構成へと移行する中で、従来の社内ネットワーク境界だけではアクセス保護が困難になっています。この状況下で、ユーザーIDを中心にアクセス権を確認し、必要な人だけに必要なサービスへのアクセスを許可するIDaaSの重要性が高まっていると指摘されています。
市場成長を牽引する要因
市場成長を直接的に押し上げている要因の一つに、サイバーセキュリティリスクの増大があります。レポートによると、2023年に日本はランサムウェアグループから標的とされた国の中で16位となり、14グループによる約45件のインシデントが発生したとされています。業種別では製造業が約31%、テクノロジーが約19%、サービスが約10%を占めていました。
このような攻撃では、盗まれたIDやパスワード、あるいは過剰なアクセス権限が侵入経路となる可能性があります。そのため、MFA、アクセス監視、自動的なアカウント管理といった機能への需要が高まっているといいます。IDaaSはネットワークそのものを防御する製品とは異なり、「ユーザー本人であること」と「そのユーザーにアクセス権があること」を継続的に確認する役割を担っています。
特にMFAはIDaaS市場の中心的な機能であり、パスワードだけでなく、ワンタイムコード、認証アプリ、端末情報、生体認証などを組み合わせることで、パスワード流出時の不正ログインリスクを抑制します。また、SSOは従業員が多数のクラウドサービスごとに異なるパスワードを管理する負担を軽減し、利便性とセキュリティの両立に貢献します。
従業員の入社・異動・退職時にアカウントとアクセス権限を自動的に付与・変更・停止するProvisioning機能も、不正アクセスリスクの低減に不可欠です。さらに、誰がどのデータへアクセスしたかを記録し、アクセス権の適切性を定期的に確認するAudit、Compliance and Governance機能は、内部統制や監査対応を容易にします。
リモートワークの普及も市場拡大を促す重要な要素です。従業員がオフィス外からSaaSや社内システムへアクセスする機会が増加する中で、物理的な社内ネットワークに依存しない、ユーザーIDを中心とするアクセス管理が不可欠になっています。この流れは、Zero Trust型セキュリティモデルとも親和性が高いとされています。
デジタルトランスフォーメーション(DX)も市場の重要な成長要因です。企業がCRM、ERP、コラボレーションツール、データ分析など複数のクラウドサービスを利用するほど、それぞれのアカウントを個別管理する負担が増大します。IDaaSを中央認証基盤として活用することで、ユーザー管理とアクセス制御を統合しやすくなります。
ハイブリッドクラウドがけん引する導入形態
導入形態別では、Public Cloud、Private Cloud、Hybrid Cloudに分類されます。このうち、Hybrid Cloudは予測期間中にCAGR20.4%で成長すると見込まれており、市場全体の成長率を上回るとされています。
Hybrid Cloudの伸びる背景には、日本企業がすべてのシステムを一度にパブリッククラウドへ移行するのではなく、オンプレミスやプライベートクラウドに残る基幹システムと新しいSaaSを併用するケースが多いことが挙げられます。IDaaSが両方の環境を横断して認証できることで、段階的なクラウド移行を支援する役割を果たすと見られています。
業種別の動向と主要企業
業種別では、IT・通信、ヘルスケア、BFSI(銀行・金融サービス・保険)が特に高い成長率を示すと予測されています。詳細表によると、IT・通信のCAGRは22.4%と最も高く、ヘルスケアが20.9%、BFSIが19.3%と続きます。
IT・通信分野では、多数の従業員、開発者、顧客、パートナーがクラウド環境へアクセスするため、ID管理が複雑化しやすい傾向があります。BFSI分野では、顧客情報や金融資産を扱うため高い認証強度が求められ、MFAや生体認証、アクセス監査の導入価値が大きいとされています。ヘルスケア分野も、医師、看護師、患者など多様なユーザーが機密性の高いデータへアクセスするため、役割に応じたアクセス権管理が重要です。
競争環境では、NEC、Thales、Oracle、Microsoftが主要企業として紹介されており、このほかBroadcom、Fujitsu、Authlete、Digital Arts、Atos、Oktaなどが挙げられています。
まとめ
日本のIDaaS市場は、2025年の約1億4,762万米ドルから2035年には約8億1,970万米ドルへと大幅に拡大し、CAGR18.7%という高成長が期待されています。特にHybrid Cloudの導入が市場をけん引し、企業の段階的なクラウド移行とオンプレミス環境の共存を支援する構造が重要になると考えられます。
市場の本質的な変化は、セキュリティ管理の中心が「ネットワークの内外」から「誰がアクセスしているか」へと移ることにあるといえます。リモートワーク、SaaS、EC、クラウドの拡大が進むほど、IDを企業セキュリティの中心に据える必要性が高まっていくでしょう。日本のIDaaS市場は、単なるログイン管理サービスから、従業員・顧客・パートナーのデジタルIDを横断的に管理するクラウドセキュリティ基盤へと発展していくと見られています。
ソース元
ページタイトル: 株式会社マーケットリサーチセンター
URL: https://www.marketresearch.co.jp
